競馬場や牧場で馬を見ていると、立ったまま目を細めてじっとしている馬を見かけることがあります。
「馬は立ったまま寝る」と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
では、本当に馬は立ったまま眠っているのでしょうか?
結論からいうと、馬は立ったまま眠ることができます。
ただし、「馬は立ったまましか寝ない」というわけではありません。
馬は立った状態でも眠り、横になって眠ることもあります。そして、この「立って眠る」と「横になって眠る」の違いには、馬ならではの身体の仕組みと、生き残るための習性が関係しています。
今回は、獣医学や馬の睡眠に関する研究を検索しまとめたものをもとに、馬がどのように眠るのかを見ていきます。


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馬は本当に立ったまま眠る
馬は、人間のように一度ベッドに横になって何時間も眠る動物ではありません。
馬の睡眠は「多相性睡眠」と呼ばれ、24時間の中で何度も短い睡眠をとることが知られています。
University of California, Davis(UC Davis)の研究グループによると、馬は1日の中で複数回、短い睡眠をとり、その多くは夜間に行われます。総睡眠時間はおおむね数時間程度とされています。
2022年に発表された馬の睡眠に関するレビューでも、研究によって数値には幅があるものの、馬の総睡眠時間は平均すると約3~4時間程度と整理されています。研究方法によって測定値が異なるため、「馬は必ず○時間眠る」と決めつけることはできません。
そして、その睡眠の一部は立った状態で行われます。
なぜ馬は立ったまま眠れるの?
その秘密の一つが、馬の後肢にある特殊な仕組みです。
馬には、後肢の関節を安定させ、立った姿勢を比較的少ない筋肉の力で維持できる「stay apparatus(ステイ・アパラタス)」と呼ばれる仕組みがあります。
特に膝にあたる膝蓋関節(しつがい関節)などを安定させることで、馬は立った状態を維持しやすくなっています。
2003年に発表された馬の後肢の解剖学的研究では、馬が立っているとき、膝関節の安定化に関わる筋肉の活動が非常に小さいことが確認され、この特殊な仕組みによって立位を維持できることが示されています。
つまり、
立っている=ずっと筋肉に力を入れて踏ん張っている
というわけではありません。
この仕組みがあるため、馬は立った状態で休んだり、眠ったりすることができます。

ただし、立ったままでは「すべての睡眠」ができるわけではない
ここが「馬は立ったまま寝る」という話で、特に重要なポイントです。
馬の睡眠には、簡単にいうと「NREM睡眠」と「REM睡眠」があります。
NREM睡眠は、さらにいくつかの段階に分けられる睡眠で、馬では立った状態でもNREM睡眠の一部をとることが確認されています。
一方、REM睡眠では全身の筋肉の緊張が大きく低下します。
そのため、馬がREM睡眠に入るときには、基本的に横になった状態になる必要があります。
2022年の獣医学レビューでは、REM睡眠は主に横臥位(体を横にして寝る姿勢)や、胸を下にした伏臥位で観察されると整理されています。
つまり、
立ったまま眠れる=立ったまま全部の睡眠を済ませている
ではないのです。
馬は横になって眠ることもある
もちろん、馬も横になります。
馬が横になっている姿を見たことがある人もいるでしょう。
胸を下にして脚を折りたたんだ状態で休むこともあれば、体を横に倒して休むこともあります。
特にREM睡眠との関係では、横になっていることが重要になります。
過去の研究では、REM睡眠は横になった状態で観察され、特に頭を地面に預けた姿勢などで確認されています。
だからこそ、馬にとって「横になれる環境」は単に快適かどうかという問題ではありません。
十分に横になって眠れることは、馬の健康や福祉にも関係しているのです。

馬はなぜ、いつも横になって寝ないの?
ここには、馬がもともとどのような動物だったのかが関係していると考えられています。
馬は草食動物であり、野生下では捕食者から逃げる必要があります。
横になって深く眠ってしまえば、危険が迫ったときにすぐ逃げることが難しくなります。
そのため、馬は短い睡眠を何度もとりながら、周囲への警戒を保つという生活スタイルを発達させてきたと考えられています。
2022年のレビューでは、馬のような被食動物では、睡眠中も警戒を維持することが生存上重要であり、群れの中で立っている個体と横になっている個体がいるという行動も報告されています。
ただし、「群れの中で必ず誰かが見張り役になる」といった説明は、一般向けにはよく語られるものの、研究上すべての状況で単純に当てはめられるわけではありません。
馬の睡眠には、群れの状態だけでなく、環境、安心感、寝床、社会的な関係、運動、健康状態など、さまざまな要因が関係しています。
安心できないと、馬は横になりにくくなる
ここは、馬の睡眠を知るうえでとても興味深いところです。
馬は「横になりたいと思えば、どこでも横になる」というわけではありません。
2026年の研究では、馬の横臥行動は、環境の安全性、社会的状況、寝床の状態、周囲への慣れ、身体的な快適さなどの影響を受けることが示されています。慣れない環境では、横になることを遅らせる場合もあります。
また、2025年にEquine Veterinary Journalで発表された研究では、若い馬を対象に、屋内で単独にした場合、屋外に出した場合、仲間と一緒に屋外で過ごした場合などで横臥行動を比較しています。
研究では、屋外や仲間と一緒に過ごす条件で横臥時間が増える傾向が確認されました。ただし、対象頭数が10頭と少なく、すべての馬にそのまま一般化できる研究ではありません。
つまり、馬にとって、
「ここなら安心して横になれる」
という環境が重要なのです。

横になれない状態が続くとどうなる?
ここは「馬は立ったまま寝るから、横にならなくても大丈夫」と誤解しないためにも重要です。
馬は立った状態でも一部の睡眠をとることができます。
しかし、REM睡眠には横臥が必要です。
そのため、何らかの理由で長時間横になれない状態が続くと、REM睡眠が不足する可能性があります。
2021年に発表された研究では、83頭の馬を対象に横臥行動などを調査し、横になっている時間が極端に短い馬の中にREM睡眠不足の兆候を示す個体が確認されました。
横になれない理由としては、環境への不安だけではなく、痛みや身体的な問題なども考えられます。
そのため、馬が横になっているかどうかは、単なる「寝姿」ではなく、馬の福祉を考えるうえで重要な行動の一つとして研究されています。
まとめ
ここまで見てくると、「馬は立ったまま寝る」という一言の裏側には、かなり複雑な仕組みがあることが分かります。
馬は、
- 立った状態でNREM睡眠をとることができる
- 後肢には立位を維持しやすくする特殊な仕組みがある
- REM睡眠には基本的に横臥が必要
- 安心できる環境では横になって眠る
- 横になることが難しい状態が続くと、睡眠や福祉に影響する可能性がある
という特徴を持っています。
「立ったまま寝る」というのは捕食者から身を守りながら生きてきた馬の身体と行動の進化を知る手がかりでもあるのです。
競馬場で見るときとは違う姿も
競馬場に行くと、パドックで馬が歩いている姿や、レースで全力疾走する姿に目が行きます。
しかし、もし馬が立ったまま目を細めていたら、
「寝ているのかな?」
と少し注目してみてください。
牧場見学などを訪れたときは横になって休んでいる馬を見る機会があれば、
「この馬はいま、安心して休める場所にいるのかもしれない」
と考えてみるのも面白いでしょう。
様々な馬の様子を見て、この子はいまどういう状態かに思いはせるのも、
「馬」という生き物に思い入れを抱ける一つの要素だと思いました。

馬のことを知って、競馬で頑張る馬たちをより一層応援しよう!
この記事の情報について
※本記事について
本記事は、馬の生態・行動・睡眠などに関する研究論文、獣医学・大学・専門機関などの公開情報をもとに、一般の方向けに分かりやすくまとめたものです。研究によって結果や見解に違いがある場合は、複数の情報源を照合したうえで掲載しています。
馬には個体差があり、年齢、健康状態、飼育環境などによって行動や生態が異なる場合があります。本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、特定の馬の健康状態や飼養方法について判断するものではありません。
記事内の情報は、公開されている研究・資料をもとに作成していますが、今後の研究によって知見が更新される可能性があります。
また、本記事ではAIを情報収集・構成・文章作成の補助として活用し、公開されている専門資料・研究論文などを確認したうえで編集しています。
参考・出典
- Greening L, McBride S. A Review of Equine Sleep: Implications for Equine Welfare. Frontiers in Veterinary Science, 2022. 論文
- University of California, Davis. Equine Sleep and Sleep Disorders. UC Davis
- Recumbency as an Equine Welfare Indicator in Geriatric Horses and Horses with Chronic Orthopaedic Disease. Animals, 2021. 論文(PMC)
- Helmerich P, Bachmann I, Gygax L. Comparing lying behaviour of young riding horses… Equine Veterinary Journal, 2025. 論文
情報確認日:2026年8月21日


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