はじめに|英国と馬の関係をもう少し知りたくなった
英国といえば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
紅茶、歴史ある建物、美しい街並み、そして英国王室。
編集者の場合は、やはり「競馬」が思い浮かびます。
英国は近代競馬発祥の地として知られ、世界的に有名な競馬場やレースが数多く存在しています。
普段から競馬を楽しんでいる編集者にとって、英国は以前から興味のある国のひとつでした。
特に印象に残っていたのが、エリザベス2世女王と競馬の関係です。
女王は自身でも競走馬を所有しており、そのうちの一頭「ハイクレア」の血統は、後に日本の三冠馬ディープインパクトへとつながっています。
また、日本にも女王の名前が付けられたGⅠレース「エリザベス女王杯」があります。
競馬を楽しそうに観戦されている姿を映像で見たこともあり、英国王室と競馬の関係については、以前から少し知っていました。
しかし、英国の人々が普段どのように馬と関わっているのかについては、ほとんど知りませんでした。
そんな中、2026年10月9日、大阪の阪急うめだ本店で開催された「英国フェア2026」に足を運びました。

今回のお目当ては、英国と馬にまつわるトークショーです。
この日は、英国の競馬文化やニューマーケットでの暮らしをテーマにしたトークショーが開催されていました。
そこで聞いたのは、エリザベス2世女王の愛馬にまつわるエピソードや、一般道を歩く競走馬、休日にポニーと遊ぶ家族など、日本ではなかなか想像できないお話でした。
競馬という競技だけではなく、英国では人々の暮らしや文化にも馬が深く関わっている。
そんな話を聞いて、英国と馬との関係について、もう少し知りたくなりました。
今回はトークショーをきっかけに興味を持った「英国の馬文化」について、王室との歴史や人々の暮らしを中心に、編集者なりに調べてみました。
日本と馬との関係や歴史についてはこちらの記事もご覧ください。


1. エリザベス2世女王と馬の関係
幼少期から続いた馬への愛情
2022年に96歳で亡くなったエリザベス2世女王。
英国王室の公式サイトによると、女王が最初に所有したポニーは、祖父ジョージ5世から贈られた「ペギー」という名前のシェトランドポニーだったそうです。
幼い頃から馬に親しんできた女王は、成長してからも乗馬を楽しみ、競走馬の所有や生産にも熱心に取り組みました。
英国を代表する競馬の祭典「ロイヤルアスコット」や、英国ダービーが行われるエプソム競馬場にも足を運び、競馬観戦を楽しんでいたことで知られています。
競馬場で所有馬の勝利を喜ぶ女王の姿は、私にとっても印象深いものでした。
公務として競馬場を訪れるだけではなく、女王自身が一人の馬主であり、競馬を愛する人でもあったのです。
女王の愛馬ハイクレアとディープインパクト
編集者が以前から知っていた英国王室と日本競馬のつながりに、「ハイクレア(Highclere)」という競走馬がいます。
ハイクレアはエリザベス2世女王が所有・生産した牝馬で、1974年に英国の1000ギニー、フランスのディアヌ賞(仏オークス)を制した名馬です。
そして、このハイクレアの血統が、後に日本競馬の歴史に名を残すディープインパクトへとつながります。
その関係を簡単に表すと、次のようになります。
ハイクレア
↓ 娘
バーグクレア
↓ 娘
ウインドインハーヘア
↓ 息子
ディープインパクト
つまり、ハイクレアはディープインパクトの母方の曾祖母にあたります。
2005年に無敗でクラシック三冠を達成し、引退後も種牡馬として数多くの活躍馬を送り出したディープインパクト。
その母系をたどっていくと、英国女王が所有した名牝に行き着くのです。
英国王室と日本競馬。
一見すると遠い存在にも思えますが、血統を通じてつながっていると考えると、なんとも面白いものです。

日本にある「エリザベス女王杯」
そして、もうひとつ日本競馬とのつながりがあります。
それが、京都競馬場で開催されるGⅠレース「エリザベス女王杯」です。
このレースは、1975年にエリザベス2世女王が来日したことを記念して、翌1976年に創設されました。
もともと「ビクトリアカップ」という名前で行われていた競走を引き継いだものです。
現在も秋の牝馬GⅠとして親しまれており、日本の競馬ファンにとってもなじみのあるレースではないでしょうか。
普段何気なく見ているレース名にも、英国王室との歴史的なつながりが残っているわけです。
2. 女王の最後の旅路を見送った愛馬
今回のトークショーで、特に印象に残ったエピソードがあります。
それは、エリザベス2世女王の葬儀にまつわるお話です。
2022年9月19日。
女王の国葬が執り行われたこの日、ウィンザー城へ向かう棺を乗せた車を見送っていたのは、人々だけではありませんでした。
そこには、女王が愛した一頭のポニーの姿がありました。
名前は「エマ(Emma)」。
英国原産のフェルポニーという品種で、女王が長年乗馬をともに楽しんできた馬です。
エマは鞍を着け、女王の馬の世話を長年担当してきたテリー・ペンドリー氏とともに、葬列を見送っていました。
そして、その鞍には女王が乗馬の際に愛用していたスカーフが掛けられていたのです。
編集者は今回のトークショーでこの話を初めて知りました。
英国王室と馬というと、華やかな競馬や馬車を使った儀式を思い浮かべていました。
しかし、このエピソードから感じたのは、そうした格式や伝統とは少し違うものでした。
女王が一頭の馬と過ごしてきた長い時間。
乗馬を楽しみ、ともに歳を重ね、そして最後の別れを迎える。
馬との関係は、単なる所有者と動物という言葉だけでは表せないものなのかもしれません。
英国王室の公式記録を調べてみると、女王は90代になっても乗馬を楽しんでいたそうです。
さらに、競走馬だけではなく、フェルポニーやハイランドポニーなど、希少な馬・ポニーの品種を守る活動にも関わっていました。
一生を通じて馬とともに過ごしてきた女王。
その最後の旅路を愛馬が見送ったという出来事は、女王と馬の関係を象徴しているように感じました。

3. 英国王室と競馬の歴史は300年以上
エリザベス2世女王がこれほどまでに馬を愛した背景には、英国王室と馬との長い歴史があります。
その象徴のひとつが、英国のアスコット競馬場です。
アン女王が始めたアスコット競馬場
アスコット競馬場の歴史は、1711年にさかのぼります。
当時の英国君主であったアン女王が、ウィンザー城近郊で競馬に適した土地を見つけたことが、その始まりとされています。
以来、アスコット競馬場は英国王室と深い関わりを持ちながら発展してきました。
現在も毎年6月には、英国を代表する競馬の祭典「ロイヤルアスコット」が開催されています。
特に有名なのが、王室の人々が馬車に乗って競馬場へ入場する「ロイヤルプロセッション」です。
華やかな衣装に身を包んだ観客が集まり、王室の人々が馬車で登場する。
そこには、競馬という競技だけではなく、英国王室の伝統行事としての一面もあります。
現在の英国王室にも受け継がれる馬文化
女王の死後も、王室と競馬の関係は続いています。
現在のチャールズ3世国王とカミラ王妃も、競走馬の所有や生産に関わっています。
夫妻の所有馬「デザートヒーロー」は、もともとエリザベス2世女王によって生産された競走馬です。
女王が生産した馬が、次の世代の国王夫妻に勝利を届けた。
そんな出来事にも、王室の中で受け継がれてきた競馬との関わりを感じます。
英国王室にとって、馬は長い歴史の中で親しまれてきた存在なのです。
4. 馬が街を歩く「ニューマーケット」という場所
さて、ここまでは主に英国王室と馬の関係について紹介してきました。
では、王室以外の人々にとって、馬はどのような存在なのでしょうか。
今回のトークショーでは、英国の「ニューマーケット(Newmarket)」という街についても興味深いお話を聞くことができました。
競馬とともに発展してきた街
ニューマーケットは、英国南東部のサフォーク州に位置する街です。
英国競馬の中心地として知られ、多くの競走馬や調教師、厩舎関係者が集まっています。
この街は古くから英国王室とも関係が深く、17世紀にはチャールズ2世の庇護のもとで競馬が発展しました。
現在も大規模な調教施設があり、朝になると数多くの競走馬が調教へ向かいます。
そこで見られるのが、日本ではなかなか想像できない光景です。

Image by Tony Hodge from Pixabay
横断歩道を渡る競走馬
ニューマーケットでは、競走馬が一般道を歩いて調教場へ向かいます。
道路を横断する馬たちのために車が停車し、馬の集団が通り過ぎるのを待つ光景が見られるそうです。
最初にこの話を聞いたときは、とても驚きました。
日本では、競走馬は競馬場やトレーニングセンターなどの限られた施設で目にすることがほとんどです。
しかし、ニューマーケットでは街の道路も馬たちの移動経路になっています。
さらに調べてみると、この街には「ホースウォーク」と呼ばれる馬のための通路が整備されており、道路を横断する場所の安全対策も街づくりの重要な課題になっていることが分かりました。
馬が道路を横断するときには、車との接触を防ぐために交通整理が必要になることもあります。
単に人々が馬に慣れているだけではなく、馬と人、車が安全に共存するための仕組みが考えられているのです。
競走馬が街を歩くことを前提に、道路や通路が整えられている。
ニューマーケットは、まさに馬とともに発展してきた街なのでしょう。

ニューマーケットを旅行するなら|競馬博物館や調教場ツアーも
ニューマーケットについて調べていて、もう一つ興味を持った場所があります。
それが、街の中心部にある「National Horseracing Museum(英国競馬博物館)」です。
英国競馬の歴史や文化を紹介する施設で、競馬にまつわる展示だけでなく、引退した競走馬にも会えるそうです。
さらに、ニューマーケットの公式観光サービス「Discover Newmarket」では、競走馬の調教場や厩舎などを見学するガイドツアーも用意されています。
競馬を見るだけでなく、競走馬が暮らす街を歩き、競馬の歴史を知り、実際の馬に出会う。
これだけでも、一つの競馬旅になりそうです。
私はまだ英国を訪れたことがありませんが、いつかニューマーケットを歩き、今回トークショーで聞いた馬と人が共存する風景を自分の目で確かめてみたいと思いました。
→ Discover Newmarket|公式観光・ツアー案内
5. 子供の頃から馬と親しむ英国の暮らし
街の風景だけではありません。
今回のトークショーでは、休日に家族でポニーと遊ぶというお話も紹介されました。
ニューマーケットの馬に関わる家庭では、自家用車でポニー用のトレーラーを引き、家族や知人が集まって乗馬を楽しむこともあるそうです。
子供たちは小さなポニーから乗馬を始め、成長に合わせて乗る馬の大きさを変えていくとのこと。
日本で子供がポニーと触れ合う機会といえば、動物園や観光牧場、競馬場のイベントなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
私自身も、ポニーというとそうした施設で出会う動物という印象が強くありました。
しかし、英国の馬と関わりが深い地域では、家族の休日や子供の遊びの中に乗馬が組み込まれているのです。
もちろん、英国のすべての家庭で馬が身近な存在というわけではないでしょう。
それでも、競馬や乗馬に関わる人々にとっては、馬と過ごす時間が特別なイベントではなく、日常の楽しみのひとつになっていることが伝わってきました。
競馬を知る前に、まず馬と触れ合う。
そんな環境で育った人々が、馬に関わる仕事や競技に進んでいくこともあるのでしょう。

Unsplashのradwan skeikyが撮影した写真
馬の文化が日用品にも受け継がれている
今回の英国フェアには、ニューマーケット発のブランド「Newmarket 875」も出展していました。
馬とともにある街の歴史や文化を背景にしたブランドで、馬にまつわる伝統的な色使いや織物などを現代のファッションに取り入れています。
競馬場や厩舎を離れても、馬に由来する文化が衣服や日用品に残っている。
こうした点も、英国と馬との関わりの広さを感じさせます。
おわりに|競馬場の外にも広がる馬の文化
今回、阪急うめだ本店の英国フェアをきっかけに、英国と馬の関係について調べてみました。
これまで私が知っていたのは、主に英国王室と競馬のつながりです。
しかし、今回知ったのは、それだけではありませんでした。
女王の最後の旅路を見送った愛馬エマ。
一般道を歩く競走馬と、その通行を待つ車。
家族とポニーで過ごす休日や、街に残る馬の文化。
それぞれ異なる話ですが、共通しているのは、馬が競技や娯楽の枠を超えて人々の暮らしと結びついていることです。
特に興味を持ったのは、ニューマーケットという街の存在でした。
競馬のための施設が街にあるだけでなく、馬が暮らすことを前提に、街の仕組みそのものが作られている。
そんな場所があるのだと知ると、実際に訪ねてみたくなります。
競馬を知ることが、馬を知るきっかけになる。そして馬を知ることが、その土地の歴史や文化を知るきっかけになる。
今回は大阪にいながら、遠く離れた英国へ思いを巡らせる時間になりました。
いつかニューマーケットを訪れ、実際に街を歩く馬たちを見てみたいものです。



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